21MAY.
「ミッシング」(2024)張り裂けるほどの絶望に、生きる!石川さとみで見せる作品だった!
…命じられてしまう。映画COMより)幼女失踪事件に絡む両親の苦闘を軸に、TVやSNSなど現代の情報社会の問題を絡めた壮大な物語になっている。これがまるでドキュメンタリー映画のようにテンポよく描かれ、登場人物の誰かに心が刺さる。そして張り裂けるほどの絶望の中で生きる力を見出だす。観てよかったと思える瞬間だ!あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):事件から3か月が経過した。森下夫婦が沼津駅でボランティアの支援を受けて娘の目撃情報収集ビラを配っているシーンから物語が始まる。冒頭シーンから、石川さんのこれまで見たことのない壊れた表情を観る。3か月経つと世間の関心も希薄になる。そんな中で地元TV局のクルーがこの状況を映像に納めていた。記者の砂田(中村倫也)、カメラマンの不破(細川 岳)、新米記者の三谷杏(小野花梨)だった。砂田記者はこのニュースに色を付けるため、沙織里に弟・土居圭吾の取材を求めた。圭吾(森優作)はミキサー車の運転手で美羽の最期の姿を見たとされ、警察の聴取を終えていたが、ネットで??と話題になっていた。沙織里は実の弟を犯罪者にするかもしれないのに圭吾のアパートに出向き説得、取材を受けさせた。沙織里の苦渋の選択で、彼女は精神的に追いこまれていた!砂田は「圭吾が警察で一度は不審の白い車を見たと証言し、これを取り消した」ことを取りあげ、そのときの心境を問い質した。圭吾の回答は曖昧で、圭吾の風体があやしげだから、TVを観る人には悪い印象を残す。森優作さんの演技、雰囲気が凄い!沙織は事件時アイドルのライブに参加していた。このことでSNSに「育児放棄の母親、自業自得だ!」と書かれ、意気消沈、怒りを夫にぶつける。夫の豊は「便所の落書きだ!」と無視を勧めるが、沙織里のこの行動は止まらない、むしろ嵌っていく。今の世の中、これが1番の苦痛となり彼女を狂わしていった。豊は沙織里の気持ちに寄り添う大人の対応に努める出来た夫だ。青木さんの感情を抑えた演技が光る。石川さんよりこちらの演技に惹かれた。TVで“3カ月後の森下美和失踪事件”が放送された。「豊さんが異変に気付いたのは午後7時。警察に被害届を出したのは沙織里さんが帰宅した10時だった」と放送された。沙織の写真にライブ参加のものが使われていた。放送を見た沙織里は「砂田に協力しても美羽に関する情報はなにもない。協力は放送のネタ提供でしかない」と砂田に激しく抗議した。圭吾は幼児誘拐犯として街の不良の餌食にされ、会社から仕事を取りあげられた。この状態で、DMによる「蒲郡で美羽を見た」という情報が送られてきた。豊は「まさか?」と思ったが、狂気の妻にはこれしかないと従った。発見者は会えないと伝えてきた。心無い、いい加減な情報だった。これが又、沙織里を追い込んでいく。沙織里はホテルで出会った少女を「美羽!」と叫び駆け寄る幻覚を見るようになった。地方局ではなんとかキー局を出し抜きたいという想いがある。記者はこれで出世できるチャンスだ!再度、砂田に圭吾取材の指令が出たが・・。砂田には同僚の駒井記者が市長の息子のスキャンダルをスプープしたことが、本人はそうでないと言うが、負い目になっていた。そこに「圭吾が美羽と別れ家に居たというのは間違いで夜中、車で帰ってきたのを見た」という情報は局に入った。砂田は圭吾のアパートを尋ね、取材を申し込むが断られる。そこで不破から出たのが「詩織里たちの苦しみに寄り添う」という案だった。沙織は砂田に「なんでもするから撮って!」と懇願した。砂田は悲しみの沙織里を撮ることで世間に捜査協力を訴えることにした。沙織里の希望を受けて美羽の7歳の誕生日をSNSを見て悲しみの中で迎える映像を撮ることにしたが、その日に他の取材予定があり、1週間前倒しで撮った。いわゆるやらせだ!豊はここまでやるかと非難したが、沙織は「砂田さんの言う通りにすれば美羽は見つかる」と応じた。そして沙織は砂田の圭吾取材に協力した沙織は圭吾を事件現場の公園に連れ出し、激しい言葉で強引に取材を受けさせた。もう完全に狂っているとしか思えない。砂田は沙織里を引かせ、ふたりになり、「夜中にアパートに帰ってきた?その訳?」を聞き糺した。圭吾が「賭けのスロット」と告白した。砂田は唖然とした。圭吾の告白をそのまま記事にできるか?チーフの目黒は「子供を車に残してパチンコする親もいる。そういう無責任な大人の行動で子供が危険になる視点で映像にしたらいい」と言う。「報道ニュースでない」と砂田は「半年先にして欲しい」と頭を下げた。砂田は別の視点で事件を追おうとして沙織里のアパートを訪ねていた。そこに「美羽が見つかった!」というメールが来た。沙織里は喜々として警察署に出向く。豊と砂田がこれを追った。沙織里は警察署の階段を勢いよく駆け上り村岡刑事に会った。刑事は「いたずらだ!ホームページに携帯番号載せるな!」と注意した。沙織里は呆然自失、失禁した。これを豊が支えた!沙織里はラインで圭吾に「2度と顔見せるな!死ね!」と送った。圭吾は賭けスロットに誘われた仲間の木村(サトウシンスケ)と飲み屋にいた。圭吾は木村を守るために嘘ついていた。砂田の一線を越えた取材こそ批判されるべきだ。彼女はミカンの収穫作業も心ここにあらずで、ミカンの選別もできない、自分の心を失った。これから2年後、沙織里と豊は駅前で美羽捜索のビラ配りを続けていた。ボランティアの支援、ビラ印刷の経費支援も細くなってくる。そんな中で豊は勤め先の漁業組合に気兼ねしながら、印刷屋には印刷部数を押さえてもらうなど、沙織里の捜索活動を支えていた。そんな状況の中で、小学2年生の宇野さくら誘拐事件が発生。TVが「午後7時ごろ沼津駅付近で行方不明」と報じた。沙織里は美羽もこの事件に関係していると村岡刑事を訪ねた。また、砂田記者をも尋ねた。村岡は「関係は薄い」と、砂田は「ゼロではない」と言った。沙織里と豊は宇野さくらの捜索ビラを配るボランティア活動に参加した。ビラの余白に美羽の捜索もお願いした。小野さくらの誘拐犯人は元カノと報道された。この報道に沙織は「よかった!」と声を上げた。豊は「お前、凄いぞ!」と妻の変化を喜んだ。沙織里はボランティアとして学童の交通整理に参加することにした。沙織里はミカン収穫作業でミカンに差す光を感じるようになった。この映像は、実際に自分を失った者にでないと分からない感覚かもしれない!圭吾が白い車の男をつけ、不法侵入するという事件を起こした。圭吾は警察に逮捕されたが、不起訴で釈放されることになった。沙織里が迎えに行った。圭吾は「昔、悪戯された男だと思って後をつけ捕まった」と話し、「美羽には悪いことをした、あのときスロット博打でいなかった」と泣いて謝った。沙織里は「バカ者!」と怒ったが、とめどなく泣いた!姉弟の感情が戻っていた。沙織里は虹色の光が当たる美羽が壁に残した落書きに手を添えていた。豊はネットで沙織里を誹謗中傷したデーターを持って弁護士を尋ね、法で訴えることにした。沙織里と豊は駅前で美羽捜索のビラ配りをしていた。そこに小野親子が訪ねてきて「手伝いたい!」と申し出た。豊はさくらちゃんを見て「よく生きていた!」と泣き出した。「人の幸せを願う人。この人なら世界を変えられる力のある」と思わせてくれる。この優しさが今の世には欠けている。豊が訴えた「ネット誹謗中傷」が認められたというニュースの中で、沙織里は学童たちを守る交通整理をしていた。まとめ:作品の大部で娘・美羽を失った沙織が絶望で自分を失って行く様が、TVの報道の在り方とSNSによる誹謗中傷で描かれた。他人への無関心と不寛容の世情にあって、この作品の意義があると思う。一見、面白さはないように思えるが、文章にはならない細かいエピソードやロケ地、映像が沢山あって、決して飽きることはない。ワークショップで選んだ俳優さんたちの大活躍で、脚本にない描き方に、こういう見せ方もあるかと面白かった。2年後、沙織里が光を取り戻す話。あっさりと描かれたが、自分を失うほどの絶望を味わった人なら納得のいくものだった。絵の作り方が上手いと思った。この難役を石原さとみさんが渾身の力で演じて見せてくれました。TVでは見たことのない石原さんだったが、宣伝が効きすぎていて、ちょっと不自然さを感じるところもあった。(笑)これに反して夫の豊を演じた青木崇高さん、沙織里の弟・圭吾を演じた森優作さんの演技が柔らかく自然で、私的にはこちらの方に強く惹かれた。ということで、青木さんのラストシーンの涙に「この人なら世界を変えられる」「人生は生きることに意味がある」と思った。吉田恵輔監督の作品総集編という感じで、監督の作風がしっかり出た作品だった。 ****
宮尾登美子の映画 「夜汽車」 女の哀しみを描く! ショーケンと十朱幸代の共演!
…7日公開。宮尾登美原作を基にした女の哀しみを描いた作品。土佐のやくざを演じるショーケンがカッコいい。原作:宮尾登美子「夜汽車」、「岩伍覚え書」脚本:松田寛夫、長田紀生監督:山下耕作キャスト: 岡崎露子:十朱幸代 岡崎里子:秋吉久美子 むら咲の蔦江:萬田久子 花勇:白都真理 お辰:新藤恵美 牡丹:速水典子 政代:水野久美 撃剣の浜田:内田勝正 竜王山:荒勢 小龍:須藤正裕 捨吉:丹波義隆 ジャガラの敬:片桐竜次 筆の山:大前均 霧子の父:浜田晃 吉村:永井秀和 坂本:浜田寅彦 神田:今井健二 山本勢津:松村康世 鮫島:阿藤海 佐藤病院院長:山本清 梵天の信次:小林稔侍 百鬼勇之助:遠藤太津朗 田村伊三郎:丹波哲郎 溝上昇:津川雅彦 田村征彦:萩原健一あらすじ:昭和10年の秋、高知行きの夜汽車に揺られながら、岡崎露子(十朱幸代)は少女の頃を回想していた。彼女が13歳の時、母親は妹の里子を産んで死に、やくざな父親は露子を高知一の料亭“山海楼”に売りとばし、その金を酒と博奕に使い果たしたあげく野垂れ死にしていった。露子は泣く泣く里子を人手に渡し、その養育費を稼ぐために芸妓として各地を転々。16年ぶりに故郷に帰って来たのだ。そして、17歳の女学生に成長した里子(秋吉久美子)と再会した。山海楼に腰を落ち着けた露子は、田村征彦(萩原健一)という男と知り合い愛し合うようになる。征彦は高知のやくざ一家・田村組の息子だが、途方もない夢を抱いて父親の伊三郎とは別の世界で生きていた。そんな時、里子が喀血をした。結核と診断された里子の入院費用として千二百円の金が必要となった。征彦は金策の途中で、百鬼一家の刺客に狙われ、逆にその刺客を斬ったため高知刑務所へ縛がれる。百鬼一家は田村と高知を二分するやくざで、田村と敵対していた。里子をサナトリウムに入院させた露子は、再び借金を背負う身となって各地を転々、三年の歳月が過ぎた。その間、退院した里子は、出所した征彦に裏長屋を借りてもらったが、征彦と男女の仲になってしまう。高知に戻って来た露子は、里子を訪ねた裏長家でそのことを知り、泣いて飛びだした。露子はやがて、南海銀行の新頭取・溝上(津川雅彦)の囲われ者となり、高級カフェを開く。征彦のもとに伊三郎の子分である浜田(内田勝正)と捨吉(丹波義隆)が訪ねて来た。伊三郎が高知で飛行機観覧大興行に打って出るので力を貸してくれというのだ。そんな時、伊三郎は百鬼一家の用心棒・梵天の信次(小林稔侍)に斬られて死んでしまう。田村組を継いだ征彦は、露子のカフェを訪れ、溝上の力を借りたいと土下座した。暫くして、征彦を思い切れなかった霧子は、二人が初めて結ばれた宿に征彦を呼び出す。溝上の資金力と後循を得て、征彦はアクロバット飛行の大興行を成功させた。だが、それをねたんだ百鬼一家に興行初日の夜、飛行機を爆破させられてしまう。その上、露子と征彦の仲を知った溝上は、征彦に出入り禁止を言い渡した。事のすべてを知った里子は、芸妓娼妓紹介業の勢津を訪ねて二千円で身売りする。高知から遠い娼楼を望んだが、目をつけた百鬼(遠藤太津朗)に力ずくで抱かれ、その時大量の喀血をした。征彦は梵天の信次に斬られて重傷を負い、病院にかつぎこまれた。里子を取り戻そうと百鬼一家に乗り込んだ露子は、百鬼、彼の情婦・お辰(新藤恵美)、花勇(白都真理)の前で小指をつめる。里子は人力車の中で、露子に抱かれて息をひきとった。天涯孤独となった露子は、満州の新京に渡った。征彦は、百鬼を射殺しようと待ちぶせしたが、逆に命を落とし、露子のもとに征彦が死んだという電報が届いた。昭和20年、露子は敗戦と共に、ソ連国境の町、牡丹江で消息を断った。コメント:原作は、宮尾登美子の短編小説「夜汽車」と「岩伍覚え書」。「夜汽車」という小説は、女衒の仕事として高知から大阪の遊郭まで幼い姉妹二人を連れて行く途中の夜汽車の中での様子を描いた作品だ。「岩伍覚え書」は、宮尾登美子の実の父が実際に高知県から関西や中国、満州に女性を送り込んだ女衒の仕事を父の日記を元に綴ったもので、そこから発想を飛ばしてこの映画を創り上げたという。映画は、天涯孤独の姉妹が高知で再会するも、男に愛されることで命を燃やす姉と、男を想うことで心を焦がす妹が一人の男を巡って起こす激しい愛憎劇を描いている。十朱幸代、秋吉久美子、白都真理、新藤恵美、速水典子の五人の女優が乳房露出の激しい濡れ場を披露し、"女の競艶映画"として話題を呼んだ。五社英雄監督による三部作に続いての宮尾作品の映画を山下耕作監督が創り上げた名作である。やはり土佐のヤクザ社会や花柳界を舞台にしていて、運命に翻弄される女たちを描いている点は共通している。薄幸の姉妹に焦点があてられている。幼い時に親と死に別れ、さらに生木を裂くように別れさせられた姉妹の物語。妹想いの姉、露子(十朱幸代)は苦海に身を沈めそこで稼いだ金を妹の学費にあてている。そんな姉に申し訳なさでいっぱいの妹、里子(秋吉久美子)。堅い絆で結ばれた姉妹の物語で始まるが、間に男が挟まることでドラマが動き出す。土地のヤクザの二代目征彦(萩原健一)に惚れる姉。しかし妹が結核を煩い入院費を稼ぐべく再び体を売っての旅に出る。その間に里子は征彦の手に落ちてしまう・・。任侠映画を多く手がけてきた山下耕作監督だが、本作では身勝手な男たちに翻弄される姉妹の悲しみを全編に漂わせていて、女の情感がしっかりと描き込まれている。女優の乳房露出が映画のウリにされたが、下品になりがちな濡れ場のシーンも、情愛を感じさせる美しさを保っていて意外だ。征彦の借金返済のため、やはり姉と同じ世界に身を沈める里子。品定めのシーンでの秋吉久美子のフルヌードが美しい。やはり、ヌードで競ったらこの女優は天下一だ。ヤクザの二代目として、修羅の世界で生きる男を演じているショーケン。姉妹二人と深い仲になったり、敵方の侠客と何度も殺し合いをした挙句に死んでゆく。まるでショーケン自身の人生をそのまま描いているような気がする。ヒロインの十朱幸代が、迫真の演技を見せている。ショーケンとの本気モードの濡れ場は、予想外で驚く。後半で、女だてらに指を詰めるシーンも、その迫力がハンパない。『極道の妻たちⅡ』での姐さん姿より断然レベルが上である。この映画は、Amazon Primeで動画配信可能:Amazon.co.jp: 夜汽車を観る | Prime Video天涯孤独の姉妹ふたり。13歳の露子と乳飲み子の里子が生き別れてから10数年。露子には夜汽車の響きはたとえようもない悲しみを伴う。里子と引き裂かれるように高知をあとにした夜汽車。…あれから幾年、美しく成長した里子との再会の時、里子は高知に向かう夜汽車の中で一人の男と出会う。やがてその男を挟んで姉妹ふたりの激しい愛憎がほとばしる。(C)東映www.amazon.co.jp
「ラ・スクムーン」
ミュージカル「CROSS ROAD 悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ」感想