29APR.
ヒアソビ 11
来た部屋はソファーとテーブルが並んでいる普通の一室で。正面によっこらしょと腰掛けたニノは、なにやら書類を目の前に広げた。「勉強の前にこれ。履歴書含めその他諸々の書類の記入、よろしくね。」「…。」ペンを渡され、それを受け取るも中々書く気にならない。これを書いてしまえば、俺は本当にここでスタッフとして働くことが決まってしまう。…いやでも俺が否定したって全部無駄。結局なんと言おうが働くのは既に決められていることで、"店長"とやらには逆らえない。………「え、K大出身なの?超エリートじゃん。」「いや…まぁ、、、」「へー。それで警察官。…うわー凄いねあんた。ここまでとは思ってなかったよ。」書き終えた履歴書を見て、ニノが感嘆の声をあげた。…そう褒められるのは得意じゃない。だってそれらが全部完璧でも、俺は…、、、だから皆、離れていくし。「よーし。じゃ、今度こそ授業を始めようか。…翔ちゃん?」「あ…、いや、なんでもない。」「そ?あ、メモとるならとってね。いや、頭いいから全部聞いたら頭に入っちゃう?」「な訳。」そんな冗談をさらりと受け流しながら、ニノの話に耳を傾け始めた。「前言ってたスタッフの基本その1だとかは、勝手に俺が考えたやつなんだけど、、、まぁ、やっぱり敬語は基本NG。で、プレイの一環ならOK。あとー、名前はもうお互い呼び方決めたからいいよね。それから始める時にはタイマーセットしてね。ベッドのとこのサイドテーブルにタイマー置いてあるから。1時間なら1時間。2時間なら2時間って。最大6時間まで客から指定可能。あ、1時間で5万円だから。そこ覚えておいて。」「ご、5万、、、」「専属はただ色んな客と相手するよりも値が張るんだよね。だから専属の方がいい立場で居られるんだよ。翔ちゃんなんて1日目で専属決定だから、超エリート。他から嫉妬されないように気をつけてね。」「えぇ、、、」嫉妬、か…。やだな、余計なことには巻き込まれたくねーよ。「あとはまぁ…VIPなお客さんだから扱いは丁重に。言っても潤くんしか相手しないから、プレイ以外ではちゃんと優しくしてよ。ほら、毎回外まで送ってあげるとか。特に潤くんは芸能人だから、身バレしたら大変なんだよ。出来るだけ隠してあげてね。」「はあい。」「あと…。客…潤くんに対して気持ちを持ったら終わりだよ。」「…え?それってどういう、」すると、丁度コンコンコンとドアがノックされた。ニノが立ち上がり、ドアを開けると立っていたのはフロントのボーイである。ヒソヒソと耳打ちをすると、また戻っていった。「…どした?」「潤くんが来たって。今日は来ないかと思ってたけど。あ…丁度いいじゃん。今基本は全部教えたし!」まさに名案!と言わんばかりに、嬉しそうに笑った。「え…?は?いや、待て待て。流石に今日は…。」「ん?なんで?今じゃないならいつやるのさ。そうやってずーっとずーっと先延ばしにするの?」「…だって、、、あ、潤はどっちを指名するんだよ!だって専属は俺とニノだろ?潤が選ばないと。」「いいよ、、じゃあ俺が聞いてきてあげるよ。どっちを指名するか。」そうニヤリと笑った出ていったニノ。この時俺は気づいていなかった。ニノは言葉のプロだ。言葉が商売道具だ。マインドコントロールなんて朝飯前。手馴れた相手ならなおさらで。潤と話しながら俺を指名させるようにするのは簡単なんだって。
天使を見た記憶 いつか秒針のあう頃 90
90 柳田先生と会ってから1週間が過ぎた。追い込みに入った撮影はますます過酷になり、俺は他のことをする余裕がなくなっていた。相変わらず、相葉君はバラエティにドラマにと顔を見ない日が無いくらいに活躍しているし、ニノは大作映画に主演が決まったとか・・もう俺らがグループでいる必要はないのじゃ・・・と俺は思い始めていた。そもそも、あんたの居場所の確保のために休止にしただけで多分俺を含めて3人はあいつと一緒に活動したいとは全く思っていないはず。そんなこと気にすることなどないだろう当の本人は、またもや事務所に関する不適切な発言でネット上や週刊誌で叩かれているものの謝罪するはずもなく、番組も降板せず、CMのスポンサーまでも契約を更新するとまで言ってる。これはもう明らかな忖度だ・・いいよなぁ~。お坊ちゃまはさ・・後ろ盾が頑丈でさ・・・多分あいつも足手まといな俺たちとは別れて一人で好きにしたいのだろうよ。アイドルなんていう、軽い存在じゃないからな俺は、くらいに思っているんだろうよ。そんなあいつがあんたに会いに行く理由は一つ、肖像画を手に入れるため。自分だけもらえないってことがあいつのプライドを傷つけたから。絶対に会わせない。元チーフマネージャーの佐藤さんに聞くのは最終手段だといった柳田先生。たしかにそうだろう。あんたの情報は事務所としても限られた人間しかしらない極秘事項だろうから。下手に動くと佐藤さんが不味いことになる可能性が高い。じゃあ、誰に聞くんだ・・・台本を読みながらも、ついそっちに気を取られてしまう。しっかりしろよ、俺。ともかく今は仕事だ。俺は台本をもう一度開いた。「あはは・・・相葉さんらしいよ。それにしても、Jから聞いた時はなんでっと思ったけどさ。そういうことね。あはは・・それで、あの展開ね。絶対にさ、アシスタントのアナウンサーあいつに恨みがあるな。天然のふりして突っ込みがぴったりだったよなぁ。相葉さんってさ、見かけによらず緻密に計画を立てるんだよ。俺や,Jと違ってブチ切れたって顔は見せない。いい人相葉の評価を絶対に崩したくないんだよ。その代わり裏は・・・ってね。ある意味見習わないとね。あはは・・」電話の向こうでニノの笑いが止まらない。対応策が見つからず困り果てた俺は久しぶりにこの策士の意見を聞こうと、撮影の合間に電話を掛けていた。先にマネージャーに電話を入れてニノの空いている時間を聞いた時に例の番組を見せろと伝えておいたのだけど、ちゃんと見たらしい。あれの裏話をした途端にこうなっていた。「かなり焦っていると思うな、あいつ。あんなに堂々と貰ったって宣言したんだ。どんな手を使っても連絡を取るはず。」「俺もそう思う。いままでもそうだったからな。どんな方法を使っても・・・な。なあ、どうする?俺の電話に出てくれればいいんだけどさ・・今はもう呼び出すだけなんだ・・」「俺が掛けても、無理だろうな。限られた相手からの電話しか出ないんだろうな。ふん・・着信拒否されてないだけいいけどさ。」「俺らの電話に出ないんだからさ、あいつの電話にはもっと出ないんじゃない?」「たしかに、そうだ・・・だとすると、電話にでる人間に連絡を頼むって方法かもな」「誰かに?でもさ、そいつが掛けていくら電話がつながっても、用件を言ったら切られるんじゃ?」そうだよ、電話に出て貰うことが目的じゃない。肖像画を手に入れることなんだから。「あいつの行動を見張るしかないな。」いきなりニノがマジな声で呟いた。「見張る?」その方法は考えなかったぜ。「ああ、あの人に会いにいくだろうからそれを阻止するんだよ。」ニノ、お前はやっぱり策士だな。
マーマレードラブ 16
君のいない迷路 85
船内にあるお土産&グッズコーナーの前で池田君と合流した「櫻井は?」「ああ、俺の予想だと写真じゃないかな?」内田の問いに軽く答える池田くん「なるほど記念写真か 偶然を記念してって事だな」それが一番考えられる事かなふと視線を池田君に向けると胸ポケットに彼の携帯「池田君、それ櫻井の携帯?」「そうそう、さっき写真を撮っただろ 最後のショットは俺が撮っただろ」「そうだったね 3人の写真だった」「携帯を返そうとしたのに 彼奴、さっさと行っちゃうから 胸ポケットに入れて置けば すぐに気が付くだろうと思ったの そしたら全然気が付かないで 今に至る(笑)」茶目っ気たっぷりな顔で悪戯っぽい笑みを浮かべる「櫻井、携帯ないのに気が付いて 大慌てしてるぞ ・・・」僕もそっちの方が心配ある意味お財布と同じくらい携帯は貴重品(情報の貯蔵庫だから)きっと蒼くなってるはず 「そうかな? 自分で気づかないってどういうこと? ほんと危機管理がなってないよな」呆れた顔をするけれどそこは素直に返せば済むんじゃない?「それはその場で池田が 返せばいいだけじゃない?」「うん、僕もそう思う」内田の突っ込みに思いっきり同意して非は池田君だよと言う視線を向けた「やっぱそう思う? ふふ ・・・ でも ・・・ 必ずしも持ってる方が 良いとも言えないな(笑)」謎の笑みを浮かべて悪びれる様子もなく大丈夫って顔をした「中に入ってる?」何か考えがあるのかもしれないけど慌ててる彼を安心させてあげたい「ここで待ってよう 多分、慌ててくると思うよ」「智の言う通りだよ 絶対に蒼くなって走ってくるって」「二人とも心配性だねえ ・・・ 途中で気が付くはずだから そこまで慌ててこないよ」記憶の糸を手繰れば最後に使った場所を思い出して池田君に辿り着けるとは思うけど ・・・それでも肝を冷やしてるはず「ああ ・・・ そう言う事か ・・・」突然、内田が大きな声をあげた「何?」思わず聞くと「何でもないよ ・・・ ただ ・・・ 池田の言った意味を理解しただけ」「ふふ ・・・ 」池田君はただ笑いながら大きく頷いた僕には全く意味が分からない ・・・首を傾げてるところに彼が慌てた顔で走ってきた「お帰り!」「あのさ ・・・」額に汗が浮かんでてかなり慌ててる様子これは気が付かなかったパターン?「これだろ!」池田君が彼の携帯を胸ポケットから取り出し彼に向かって見せた「池田が持ってると思ったんだけど 確認するまでは安心できないだろ は~ ・・・ 良かった ・・・」安堵した表情の彼「お前がそのまま行くから 俺が預かってたの」「ああ、写真撮った後 帰して貰ってないことに気が付いた でも、万が一ってあるだろ」「そうだな ちゃんと確認するように!」池田君が笑いながら携帯を彼に返した「お土産見てて 母に連絡するから」「携帯が見つかったって 伝えてもらうの?」「うん、おじさんの連絡先知らないから わざわざ戻って伝えるのも ・・・」「面倒だし おばさんから連絡してもらうのが一番だな」「じゃあ、僕たちは中で見てるよ」戻って伝えるとなるとまた、暫くは戻って来れないだろうからそれが一番の方法かなお互い観光中だしそれくらいは許されても良いと思う「電話で大丈夫だよ おばさん、そこは上手くやってくれるから」池田君が笑顔で僕の背中を数回叩いて中に入るよう促してくれた<続きます>