
6JUN.
境界線上のエスコート 24
side Nカタカタ。…トントンカタカタ。ザクッ、ザクッ、『…フフ、』なんだろ、これ、、幸せかも。いつも通りに家での仕事。でも、今まで全く機能してなかったキッチンが働いてる音がする。カタカタと、キーボードに向ける指はそのままに、意識はどうしてもキッチンに立つ後ろ姿へ。可愛らしくなってた髪型を一つ結びになおして、野菜を切ってるゆうちゃん。この殺風景な場所に彼女が居るだけで、ここが家らしくなる。カタカタ、カタ、、、。『はぁ、、、可愛い』今まで感情をセーブしてたせいなのか、ここまで揺さぶられることがなかったからなのか。どちらにせよ、想いが溢れるって初めての現象。でも、それすら、幸せだと思う。ゆうちゃんが、数歩歩けば、触れられる距離にいる。もうそれだけで、心が温かい。「ねぇ、、仕事して、」『!』こちらを見たわけでもないのに、声をかけられてびっくり。「視線がいたい。手、止まってるよ?」淡々とした言葉なのに、視力のいい私にはその耳の赤さが見えちゃって。『へへ、仕事しまーす』らしくない陽気な声が出た。「ふふ、」それから、一時間ちょっと。私は仕事を進めて、ゆうちゃんは食事の用意。ご飯は、敢えての鍋に決定された。ろくに食事してない私の胃を心配してくれた結果だ。食べたい分だけ。でも、野菜も食べてね。そんな、自分に合わせてもらう食事って久しぶりで。目の前に座るのが、ゆうちゃんで。全てにおいて、癒される。食事の後も、片付けはゆうちゃんがしてくれて。私はその間にまた少し仕事。過去を比べるわけじゃないけど、こういう風な時間の過ごし方も、ありなんだなって思う。色々なことが気にならずに集中できるのは、彼女の方が私を理解してくれてると感じるからだろうか?カタカタ、『…ふぅ』区切りの良いところまで作業が終わる。「ひと段落ついたの?」『ん、つきました』パタンとPCを閉じて、振り返るとソファに座ってこっちを見てる彼女と目が合った。「ふふ、それは良かったです」『ありがと』時刻はもう21時を過ぎてる。有限な時間に、私はちょっと心が寂しくなった。「ねぇ」ポンポン、『ん』自然な形で隣を促され、そっと横に腰掛ける。「明日も仕事だよね?」『うん、そうだね』毎日、仕事してる。今までに休みという概念があまりない。だけど、ゆうちゃんの質問に、仕事が無い日が欲しいって思ってしまった。明日も仕事は、ならそろそろに、と繋がるような言葉。多分、また会えるし、彼女はもう消えて無くなったりはしない。でも、寂しさが募る。(離れたくないな、)「今日は、帰るね?」想像通り続いた言葉に、ズンと心が重くなる。『うん…』「ふふ、ねぇ」ギュッ私の手をそっと繋ぐゆうちゃん。寂しさから逸らしてた目をゆうちゃんに戻して見つめると、ニコリと微笑んでくれる。何もかも見透かしたような、自分の奥深くを覗くような、この視線が、好きだ。「明日からは、ご飯ちゃんと食べてくれる?」『ん、善処する』「ホントに?」『んー多分、大丈夫』「苦笑 もし、さ、」『?』「明日も、ご飯作りに来たいって言ったら 迷惑かな?」『!いいの!?』「うん、なぁちゃんが良ければ」『良いに決まってる!』「ふふ、食べたいもの考えててね?」『うん!!』「じゃあ、そろそろ帰ろうかな?」『、うん』繋いだ手が離れ、ゆうちゃんが立ち上がる。それに続く私と、鞄を手に取り、玄関へ進む彼女。途端に、あの最後の日の背中が重なって。胸が苦しなる。玄関で靴を履く後ろ姿。手を伸ばしかけて、手が震えてることに気付く。それが彼女を疑うような行動に思えて、隠すように後ろに手を回した。「よし、じゃあ、」『気をつけて、ね』あの時とは違う。ちゃんと、別れの言葉も言える。明日の約束もある。でも、寂しくて、怖い。「なぁちゃん、」『ん?』「いつでも、連絡していい?」『っ、うん』「なぁちゃんも、してね?」『うん、する。』「また、明日ね」グイッギュッ思わず抱き寄せてしまう。ちゃんと、手を伸ばせたこと、自分で褒めてあげたい。『また、明日ね、ゆうちゃん』ギュウ。「心配しないで」『うん』「じゃあ、おやすみ」『うん、おやすみ』ゆっくりと体が離れ、玄関の扉が静かに閉まった。途端に、いつもを取り戻してしまう部屋。頭を項垂れつつ、私は部屋に戻る。ピコン♪部屋の奥にあったスマホが鳴る。『! へへっ///』それを見て、凄くホッとした。(もう、大丈夫だ、)そう思えて、スマホをギュッと胸に抱いた。"なぁちゃん、好きだよ"

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