13NOV.
天網 その36
㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。 ご注意ください。 医女は、裸岩の前で話しかけられた立派な両班が患者の隣に座っているのを見て納得した。ああ、奥様のご不安はこの方の不在だったのだ、と。両班の奥方が人気の少ない田舎にポツリと少ない従者・・・それも自らの下人下女でない爺さんと婆さんに傅かれているのを見て不審に思わないわけはなかった。だが、たっぷりと爺さの方からもらっている心づけは医女の口を閉じさせていた。おかげでユニの存在は噂にはならなかったのだ。 「・・・脈が落ち着いておられますね。胸やけはいかがですか?」 「それがね、昨夜の膳も今朝の粥もきちんと食べることができたのですよ。」 「それはうれしいご報告ですね。今のご気分は?」 「いつもほどの胸やけはないのです。悪阻が収まったのでしょうか?」 「まだ収まるほどの時期ではございませんけれど、何か心に引っかかることが落ち着いたのではございませんか?旦那様がお傍におられて、安心されたのが大きな原因だと思いますよ。」 ユニと医女の会話に、ソンジュンが割って入った。 「妻を漢城に連れて帰りたいのだが、旅に耐えられるだろうか?妻の体も腹の子のことも案じられるのだが。」 昨日と違い、落ち着いた物言いの立派な両班は大層美男子で、夫を持たない大年増の医女も流石にドギマギするほどだったが、気を落ち着けて言葉を探した。 「奥方様のお体のことを考えれば、遠距離はあまりお勧めは致しません。この辺りの農夫や漁民の嫁は生む日まで普通に働きはしますが、それはやはり足腰や体の強さが違いますのでね。」 屋敷の奥で育ち、めったに外歩きなど許されない両班の令嬢を診たことだってある医女にとって、普段よく見る平民の女たちと両班の奥方は全く別の生き物のように思えるのだ。 「ですが、奥方様は実際にはこちらまで旅をしてこられたわけですよね。歩き通されたのでしょうか。それとも女輿をお使いになったのでしょうか?」 「いいえ。こちらに参る時には、知り合いの荷車に乗せて頂いて、それから歩きもしましたわ。そのときはお腹に子がいるとは知らなかったのですの・・・。」 無意識に腹を撫でるユニの熱を確認し、もう一度脈をとって医女は考えて答えた。 「荷車も揺れが体に直接伝わりますね・・・それならば歩く方が数倍ましです。」 「馬は、どうだろうか。」 そのとき呼んだ医師が着いたので、医女と二人でもう一度ユニを診察した。空に浮いたソンジュンの問いは、一通りユニを診た医師によって回答があった。 「旦那様が抱いて横座りの状態であれば馬でもよろしいでしょう。けれど腹の張りを感じたり、痛みがあったりしたときにはすぐにやめてください。」 旅程分の薬を用意してもらうのに一日を当て、次の日の出発が決まった。 その頃、ジェシンは雲従街をのしのしと歩いていた。目指しているのはヨンハが陣取るク商団の店だ。雲従街を仕切っているとも言っていいヨンハの父は、この市場の端に品物を集散させるだけの広さを持つ建物を構えている。ヨンハは既に父の代わりに様々な仕事をそこで指揮して行っていて、都にいる限り大体はそこにいるし、いなくてもそこに行けばどこにいるかはわかるのだ。遣いを出しても良かったが、ジェシンは自分で行った方が早いと判断して、暗行御史の報告をさっさと済ませると王宮を飛び出してきていた。 未だ腹を立てている。もう何に腹が立つのかもわからない。ユニを辛い目に合わせた原因であるユン家の奴らにも、それをユニに教えたソンジュンの父にも、それに頼りにならないソンジュンにも。あいつが一番腹が立つけどな!と都への戻り路で見つけた馬鹿な後輩の顔を思い浮かべて、どすどすと足音を鳴らして歩く。ジェシンの前の雑踏が勝手に開いて道が出来ていることなど全く気付いていない。もう怒りで目がくらみそうだ、とすごい形相でク商団の門をくぐったものだから、筵を広げていた小僧が真っ青になって尻もちをついてしまった。 「おい!ヨンハ!いるんだろうが、さっさと出てこい!」 そう言いながらずかずかと建物に入っていくジェシンを、知っているものは苦笑して見送り、震える小僧をいつになく優しく立たせてやった。にほんブログ村
Ice breaker 9
「もう数週間前に一緒にホテルに行ってくれた彼を捜してるんだけど…ここの配信、観てくれてるかな…?あ、コメントで名乗り出てこいとは言わないよ…!でも………ごめんなさい、忘れられなくて。もう一度お会いしたいんです。それに………話したいこともありますし…ね?…あなたのことがもっと知りたいんです。。」…配信でそう声を掛けてから数日が経った。何日かに一度といういつものペースで配信を続けるも、もちろんコメント欄に捜し求めている彼らしき人が現れる訳では無い。ひとつだけ言うのであれば、呼びかけた次の日から、ぱたんとストーカー行為というものがなくなってしまった。それはドアポストにバラが入れられなくなった、ということも含まれている。一切残されなくなってしまった彼の手がかり。なにも起きず、いつも通りの日々に戻ってしまってモモは焦りを感じていた。…そう、"焦り"なのだ。ストーカー行為が収まってよかった、などということは一切思っていない。自分になにもしてくれなくなったということは、もしかしたら自分に飽きてしまったのかもしれない。他のお気に入りの人が見つかったのかもしれない。もう二度と自分のことを追いかけてはくれないかもしれない。配信すら見てもらえてないかもしれない。接触を図ろうとしたのが駄目だったのだろうか。彼はあくまでも接触せずにこういうことをするのを楽しんでいた?考えれば考えるほど、不安は募っていくばかり。でも同時に思い出すのは彼の体温である。信じられないくらいに好みの顔を目の前に曝け出して、自分だけをその瞳に映してくれていて。表情から指先まで、全部が愛おしかった。あれほど有意義な時間はなかった。低めの声で耳元で囁かれて、奥の奥を嫌というほど突かれて抉られて。あんなにいい人は他のどこを捜してもいないだろう。いや、いなくていい。彼だけであってほしい。モモの脳内は次第に彼ばかりに支配されていた。果たしてこれは彼の狙いなのか否か。。ーーー「こんばんはー。見えてるかなー?今日は…じゃじゃーん!これを使いまーす!…ふふ、今日のはただのディ ルドじゃないよ?バイブ付きのディ ルドでーす!!!」そういつものようにカメラの目の前に差し出した玩具。相変わらずのグロさを放っている新しいソレに、チャット欄が一気に盛り上がった。「でしょでしょ楽しみでしょ。バイブ付きのディルドずーっと欲しかったんだよねー!だってただの電マだったら細いじゃん?俺ぐらいになるとあれじゃ満足できないんだよ。」それを見た男は満足気に微笑む。…ただ、ここにはいつものような笑顔はなかった瞳の奥に据えているのは、常に彼の姿だけである。服の裾に手をかけて、ゆっくりと見せつけるように服を脱いでいく。服を脱ぐということだけで再び盛り上がるチャット欄。いかがわしいコメント。勝手に盛り上がっているチャット欄を横目に、彼は手に潤滑油を馴染ませて、指を後孔に突き立てた。少し大げさに、まだ本番じゃないというのにもっともっとチャット欄が盛り上がるように。鼻から漏れ出る声が盛っているとバレないギリギリを攻めながら、深い呼吸を繰り返して拓いていく。多少痛いくらいが丁度いいか。そう思った男は解すのも程々にして、先程見せつけた玩具を再びカメラの前に出した。…陰 茎は見えないように、見せても鼠径部まで。玩具を片手で支えながら、ゆっくりと腰を下ろしていく。すべて入りきったところ密かに男は思う。これが彼のだったらいいのに、と。
求めた、さらば与えられた
〜Sugar〜177 Fin②