
2MAR.
番外53: 「児童・思春期病棟の1年」
番外53: 「児童・思春期病棟の1年」 精神科医になって5年目に、A病院の児童・思春期病棟(小学生~中学生)で勤務することになった。 それまで勤めていたA病院の2人の児童精神科医が、急に辞職して、病棟が存亡の危機にある、という事情だった。 巡り巡って私に話が来たのである。 児童・思春期病棟の約40人の入院患者さんと、一般内科病棟に間借りした形の高校生約10人の入院患者さんを受け持ち、児童・思春期外来の患者さん多数と、院内のリエゾンも、1人で診るという内容だった。 児童・思春期病棟に入院していた子どもたちの多くは、不登校含む不適応が長期化しているために入院に至っていた。 不適応の背景もまた様々で、当時はほとんど認識されていなかったが、今振り返れば、発達障害の子たちも多かったと思う。愛着障害や、不安障害、解離性障害、行為障害、統合失調症、被虐待、家庭環境や生育環境の深い問題などなど、多岐に渡っていた。 着任してみるまで、なんとかなるだろうと状況を楽観的に考えていた私は、以後、想像以上の困難に突き当たることになった。 通常の仕事量の多さに加えて、重心病棟(重症心身障害児・者病棟)、結核病棟にも精神科医の役割が求められた。 しかし、もっとも負担だったのは、内科系外科系あわせて1人という当直体制だった。月に2回は回ってくる。 A病院は、退職した2人の児童精神科医と同じ大学出身の医師が多く、当初からアウェイ感が強かった。当直の時に、非協力的な医師が多かったのである。 私は、「存亡の危機を助けるつもりで赴任したんだけどなー」「おかしいなー」「この態度は許せんなー」と思っていた。 おそらく、2人には、辞職するという捨て身の切り札で通すべき筋があったのだろうから、私は、言わば「ストライキの横紙破り」のような存在であったのだろう。 もちろん、優しい医師も、普通の医師もいた。 外科の縫合の仕方を、見かねた当直師長が教えてくれたことも思い出す。 児童思春期病棟は、普通の小児科病棟という構造で、精神保健福祉法のもとにはなかった。 一般病院なので、行動制限の法的根拠もなく、基本、出入り自由の開放病棟であり、1年間に、大小合わせてのべ80人の離院への対応にも、日々追われた。 ある中学生は、翌日に病院近くの排水溝の金網の下にうずくまっているところを発見された。夏の日曜日に、別の中学生が院外に走って行くのを、たまたま目撃し、本気の5kmを追いかけて走ったこともある。 ある中学生は離院の常習者だった。仮にBくんとしよう。Bくんは、離院はするが、必ず途中で、公衆電話から病棟に電話をかけてくるのだった。 「歩けなくなった」「連れに来てほしい」 Bくんはかなりの肥満でもあったので、本人の意思を超えて限界がくるのだろうが、「あまりにも同じパターン過ぎだよねー」、「逃げるなら逃げるで、いつか、家にたどり着いて離院達成してほしいよねー」と、私たちはよく話していた。 そして、ある時、「離院達成作戦」を決行した。 リュックに食べ物、飲み物を十分に詰め、時計と10円玉多数を持たせ、30分毎に公衆電話から病棟に電話するように命じて、「自宅まで歩いての離院(そう呼ぶかどうかは置いておいて)を絶対成功させるように!」と、送り出したのである。 当時は、スマホなどない時代で、その代わり公衆電話が、道路沿いに数多く設置されていた。 看護師さんたちが、「もう歩けない」と、電話口で弱音を吐くBくんを叱咤激励し、その場で20分座り込んで休むように助言したり、飲み物をとりあえず飲むよう助言したりし続けた。 結果、Bくんは、約20kmの道のりを歩いて自宅に帰る、というミッションを達成することができた。成功の連絡を、本人が、そしてお母さんが電話口でしてくれた時、電話線を挟んで、家庭も病棟も歓喜に包まれた。 歯に衣着せぬ発言や突飛な行動で、他児から村八分状態にされていた統合失調症の女の子がいた。その子の摂食環境を保護する必要もあり、私は、昼食と夕食は、食堂で、その子と対面の席で食べるようにしていた。みんなと同じ病院食である。学校みたいに着席する位置にそれぞれの名前が貼ってあるのだが、いつの間にか、私の名前もテーブルに貼られていた。 夕方になると、男女ほとんどの子どもたちを連れて、病院のグラウンドに出て、三角ベースをした。 運動が苦手な子でも打てるように、ボールはバレーボールにした。打力のある子たちもいて、何個もバレーボールをつぶすことになった。 そこには、着任前に思い描いていた、イメージどおりの「子どもの精神科」があったように思う。 私の送別会の日、病棟婦長が病院から叱られるのを覚悟で、児童・思春期病棟の入院患者さん全員を外泊に出し、夕方から病棟を閉鎖した。 スタッフ全員が参加してくれるという、それが、1年間の、夢のようなご褒美だった。

《売れてる人の共通点》フロントに人が来ない時

【高市総理 愛子天皇を否定】悠仁天皇を擁立する発言を繰り返し国会で発言 天皇陛下のホンとの気持ち

2026/03/01(K) 5本