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    永遠のジュリエットvol.72 〈キャンディキャンディ二次小説〉

    五月のシカゴ。教会の控室へ初夏を思わせるやわらかな陽光が差し込み、窓の向こうでは色とりどりの花々が陽射しを浴びて美しく輝いていた。開け放たれた窓からは、咲き誇るバラの甘い香りと若葉を渡る爽やかな風が流れ込み、小鳥たちの澄んださえずりが静かに響いている。柔らかな陽光に包まれた庭は生命の輝きに満ち、まるでこの特別な一日を祝福しているかのようだった。純白のウェディングドレスに身を包んだキャンディは、鏡の前に静かに立っていた。幾重にも重なる繊細なレースは、窓から差し込む陽光に淡く輝き、長く流れるトレーンは床にやわらかな影を落としている。スタッフたちはドレスの裾を丁寧に整え、髪を結い上げ、純白のベールをかけた。その美しさに、誰もが思わず手を止めて見入ってしまう。「きれいよ、キャンディ」そっと声をかけたのはアニーだった。「本当に……とってもきれいだわ」パティも目を潤ませながら微笑む。「ありがとう」 キャンディは鏡越しに二人へ穏やかな笑みを返した。「そろそろ参列者席へ行くわね、キャンディ」アニーとパティは顔を見合わせて小さくうなずくと、花嫁に最後の微笑みを残し、静かに控室を後にする。扉が静かに閉まると、部屋には再び穏やかな静けさが戻り、キャンディは鏡の中の自分を見つめながら、小さく息を整えた。鏡の中には、誰もが憧れる花嫁の姿が映っていた。孤児院で育った少女が、アードレー家の若き当主アルバート・アードレーの花嫁となる。ほんの数年前まで、誰一人として想像もしなかった未来だった。ふと、鏡に映る花嫁姿の自分を見つめた瞬間、キャンディの心は時を越えるように、遠い日へと舞い戻っていた。ポニーの丘で、風に吹かれながら野原を駆け回り、青空の下で笑い転げた日々。レイクウッドでは、アンソニーやアーチー、ステアたちと夢中になって季節を追いかけ、毎日が輝く宝石のように胸の中で瞬いていた。あの頃は、明日がどこへ続いているのかなど、誰にも分からなかった。ただ目の前の空を見上げ、笑い、泣き、精いっぱい生きていた。そして、思い出の光の向こうから、ひとつの面影が、春風に運ばれるように静かに浮かび上がる。───テリィ。その名を胸の中でそっと呼んだだけで、忘れたはずのぬくもりが、遠い記憶の彼方からやさしく心を包み込んだ。キャンディは静かに目を閉じた。「もう終わったこと………」何度そう言い聞かせても、その名前だけは心の奥から消えてはくれなかった。届かなかった手紙。すれ違った想い。互いを深く愛しながら、それでも離れるしかなかった運命。そのすべてを胸の奥深くへ静かにしまい込み、今日という日を迎えたのだ。アルバートは、どんな時も答えを急がせることはなかった。苦しい時には黙って寄り添い、悲しい時には何も尋ねず、ただ隣にいてくれた。その揺るがぬ優しさに、何度救われてきたことだろう。だからこそ、この人と歩いていこうと決めたのだ。キャンディは、それが自分にできる、精一杯の誠実さなのだと信じようとしていた。「キャンディスさま」スタッフの声に、キャンディは静かに振り向く。「皆さまがお待ちです」「ええ。」小さく頷くと、キャンディはもう一度だけ鏡の中の自分を見つめた。花嫁の笑顔は、きちんとできている。それでも、胸の奥には誰にも触れられない小さな空白だけが残っていた。そっと胸に手を当てる。「さようなら、テリィ……」囁くようなその言葉は、春の風に溶け、誰の耳にも届くことはなかった。キャンディはゆっくりと歩き出す。花嫁として、新しい人生へ向かうために。教会の鐘は、晴れ渡った空へ祝福の音色を幾重にも響かせていた。春の柔らかな陽光を浴びた白い石造りの教会は色とりどりの花々で飾られ、正門の前には招待客の馬車や自動車が途切れることなく列をなしている。モーニングコートの紳士たちと華やかなドレスをまとった婦人たちは笑顔を交わしながら石段を上り、この日を心から祝福していた。シカゴ中が見守る婚礼だった。ブラックストーン鉱山事故という未曾有の危機を乗り越え、すべてを背負いながら立ち上がった若き当主ウィリアム・アルバート・アードレー。その隣に立つ花嫁は、孤児院で育ちながらも幾度もの苦難を越えてきた看護師、キャンディス・ホワイト・アードレーだった。新聞は、この結婚を「希望の象徴」と書き立て、人々は二人の未来を疑わなかった。そして、この結婚を後押ししたのは、ほかならぬブラックストーン鉱山事故の被害者たちだった。責任から逃げることなく最後まで自分たちに寄り添い続けたアルバートに、「補償が終わるまで結婚式を待つ必要はない」「今こそ幸せになってほしい」という声が相次ぎ、その願いはやがて世論を動かしていく。当初は先送りされるはずだった結婚式は、多くの人々の祝福に背中を押されるように、予定より早く執り行われることになったのである。教会の中では、祭壇の前に立つアルバートが静かに教会の扉を見つめていた。やがて、パイプオルガンが厳かに響き始める。大きな扉がゆっくりと開かれると、純白のウェディングドレスに身を包んだキャンディが、静かな拍手に迎えられながら、一歩、また一歩とバージンロードを歩き始めた。陽の光を受けた純白のベールが淡く揺れ、その姿は、まるで天から舞い降りた花嫁のように美しかった。参列者は誰もが幸福そうな笑みを浮かべている。けれど、その祝福の中で、キャンディの胸の奥だけは静かに揺れていた。今日からは、新しい人生を歩いていく。そう何度も自分に言い聞かせてきたはずなのに、胸の奥の小さな空白だけは、どうしても埋まらなかった。祭壇の前では、アルバートが穏やかな眼差しで彼女を迎えている。その優しさが、かえって胸を締めつける。(これでいいの……?)誰にも聞こえない問いだけが、胸の奥で静かに揺れていた。その時だった。教会の外で、一台の自動車が急停車した。激しくブレーキが軋む音が、鳴り響く鐘の音にかき消される。運転席の男が何かを叫ぶより早く、一人の男が車から飛び降りた。男は長い旅の埃をまとい、革靴には乾いた土がこびりついている。何日も眠っていないように頬は痩せ、少し伸びた栗色の髪は風に乱れていた。それでも、そのブルーグレーの瞳だけは、少しも揺らいではいなかった。彼は教会を見上げる。祝福の鐘は鳴り続けている。その音は、まるで「もう遅い」と告げているようだった。それでも男は立ち止まらない。石段を一段、また一段と駆け上がる。長い旅路も、幾百という夜も、胸に抱え続けた想いも、そのすべてを越えて。ただ一人の女性のもとへ。勢いよく、教会の重い扉へ手をかける。そして────。鐘の音が、止まった。教会にいた誰もが振り返る。開いた扉の向こう。逆光の中に、一人の男が立っていた。旅の疲れを隠しきれない姿でありながら、その目だけはまっすぐにキャンディを見つめている。テリュース・G・グランチェスター。空気が凍りつく。誰も声を発することができなかった。ただ、キャンディの唇だけが、かすかに震える。「……テリィ」その声に導かれるように、テリュースはゆっくりと歩き出した。視線は、一度たりともキャンディから逸れない。純白のドレスに包まれたキャンディ。その向こうには祭壇とアルバート。祝福の花々も、居並ぶ参列者も、今の彼には何一つ見えてはいなかった。ようやくキャンディの数歩手前で立ち止まり、長い沈黙のあと、静かに口を開く。「……迎えに来た」教会中が息を呑む。キャンディの瞳が大きく揺れた。神父は言葉を失い、参列者たちの間にざわめきが広がる。それでもテリュースは、ただ一人、キャンディだけを見つめ続けていた。「どうしても君を忘れられなかった」低く掠れた声だった。「RSCへ行っても、舞台に立っても、何を演じても……」テリュースが自分の胸を拳で打つ。「ずっと、君がここにいた」その一言に、キャンディの瞳から涙があふれ落ちた。彼女は祭壇へ進むことも忘れたように、教会の扉を見つめたまま立ち尽くしている。祭壇の前に立つアルバートは、その姿を静かに見つめていた。もう迷う必要はなかった。彼女の心が、誰を愛し続けてきたのか。その答えは、今、あふれる涙の中にはっきりと示されていた。アルバートは穏やかな表情のまま、ゆっくりとキャンディへ 言った。「キャンディ」その声は、どこまでも穏やかだった。キャンディが涙に濡れた瞳で見上げる。アルバートは悲しいほど優しく微笑んだ。「君が選ぶんだ」静かな声が教会に響く。「行きたいなら、行っていい」その言葉を聞いた瞬間、キャンディの中で張りつめていたものが音を立てて崩れていった。アルバートとなら、穏やかな人生を歩めるだろう。支え合い、寄り添い、誰からも祝福される未来が待っている。けれど、どれほど自分に言い聞かせても、胸の奥にはたった一人の男性が住み続けていた。キャンディは震えながらアルバートを見つめる。「……ごめんなさい」アルバートは小さく首を振った。謝る必要などない。愛する人が幸せになることだけを、自分は願ってきたのだから。テリュースがゆっくりと手を差し出す。あの日と同じように。キャンディは涙に濡れた瞳で、その手を見つめた。長い年月。幾度ものすれ違い。別れ。孤独。そのすべてを越えて、ようやくたどり着いた場所が、今、目の前にある。キャンディは静かにブーケを落とした。純白の花々が、大理石の床へ音もなく散る。そして震える指を伸ばし、そっとテリュースの手を握った。教会中が大きくどよめいた。だが、二人にはもう何も聞こえていなかった。テリュースはキャンディの手をしっかりと握ったまま、一度だけアルバートへ視線を向けた。言葉はない。それでも、その眼差しには深い敬意と感謝が宿っていた。アルバートも静かに頷く。それは敗北ではなかった。愛する人を、本当に帰るべき場所へ送り出したのだから。テリュースはキャンディの手を握ったまま、大扉へ向かって歩き出す。もう、この手を離すことはない。その決意だけが、静かに背中から伝わっていた。大扉が大きく開かれる。春の風が一気に吹き込み、純白のベールを高く舞い上げた。眩しい陽光が二人を包み込み、テリュースとキャンディは手を取り合ったまま、光の中へ歩み出していく。誰一人、引き止めようとはしなかった。ただ静かに、その背中を見送っていた。誰もが心のどこかで悟っていた。これこそが、長い年月を経てようやくたどり着いた、本当の結末なのだと。祭壇の前には、アルバートだけが残されていた。その表情には寂しさがあったが、それ以上に穏やかな安堵が浮かんでいた。愛する人が幸せになることを願う。アルバートのその願いだけは、最後まで変わることはなかった。やがて静寂を破るように、教会の鐘が再び高らかに鳴り響く。それは結婚を告げる鐘ではない。幾度もすれ違い、遠回りを重ね、それでも互いを想い続けた二人の、新たな旅立ちを祝福する鐘だった。白い光の中へ、二人の姿はゆっくりと溶けていく。そして____。みなさまの貴重なお時間の中で、拙い私の物語を読んで下さり、ありがとうございます💕深く深く感謝しています💕ぽつぽつと書いてまいりました二次小説、「永遠のジュリエット」が、あと1話を残すところとなりました。これまで、韓流ドラマにのめり込んで時間が無くなったり、投資に熱中して忙しかったり……とコンスタントにアップできていないにも関わらず、最後まで見捨てることなく、読んで下さり、本当に本当にありがとうございます。深く感謝しています。それはやはり、キャンディキャンディという素晴らしい作品のお名前とストーリーをお借りしていればこそ。キャンディキャンディという物語が出版されたのと同じ時代に生きられたことを幸せに思っています。そして、現実社会とは離れ、楽しく熱く想像と妄想の世界に一緒に旅をしてくださる同志のみなさまと知り合えたことが、私の宝物です。みなさまに愛をこめて。ジゼル

    キャンディキャンディ二次小説〈永遠のジュリエット〉
  • 1-3 Reunion/重なる視線

    あと一歩で手が届く場所まで来たところで、二人は立ち止まった。驚きに満ちた瞳。信じたいのに信じきれない表情。まるで幻を見ているようだった。先に口を開いたのはテリィだった。震えるほど小さな声だった。「……キャンディ?」その呼び方だけで十分だった。7年という歳月が、一瞬で消える。キャンディの唇がわずかに震える。そして。「……テリィなの?」声になった瞬間、胸の奥で何かがほどけた。間違いではなかった。幻でもなかった。目の前にいるのは。確かに。あの日、雪の夜に別れた人だった。二人はしばらく何も言えなかった。ただ見つめ合う。笑えばいいのか。泣けばいいのか。何を話せばいいのか。何ひとつわからない。けれど。互いの顔を見た瞬間に浮かんだのは、あまりにも複雑で、あまりにも懐かしい笑顔だった。まるで長い夢から覚めたばかりのように。そして二人は、ようやく同じ時間の中へ戻ってきたのだった。二人はしばらく、その場から動けなかった。積み重なった時間はあまりにも長い。雪の降る日に別れてから今日まで、互いに別々の人生を歩いてきた。それなのに今、目の前にいる。夢でも幻でもなく、その事実だけで胸がいっぱいになり、言葉が続かなかった。不意に、背後から声が飛んだ。「テリュース、知り合いか?」テリィははっと我に返った。隣には壮行会へ同行してきたマネージャーが立っている。マネージャーは不思議そうに二人を見比べていた。「あ……ああ」テリィは慌てて答える。「すみません。先に行っててください。すぐ行きますから」「わかった」マネージャーはそれ以上何も聞かなかった。手にしていたタキシードを持ったまま、人混みの向こうへ消えていく。再び二人だけになる。だが、今度は余計に言葉が出なかった。何を話せばいいのかわからない。元気だったか。久しぶりだな。そんな言葉では足りない。会いたかった。そう言うには、あまりにも多くのものを抱えすぎていた。胸の中に言葉だけが溢れているのに、一つも口から出てこない。そして結局、最初に出てきた言葉は、あまりにも唐突だった。「喫茶室で待ってて」「え?」キャンディが瞬きをする。「すぐ行くから」それだけ言うと、テリィは踵を返した。「ちょ、ちょっと待って――」キャンディが呼び止める間もなかった。テリィはそのまま人混みの中へ走って行った。キャンディは呆気に取られたまま、その背中を見送った。「なによ、それ……」思わず苦笑が漏れる。戸惑いながらも、キャンディは言われた通り喫茶室へ向かうことにした。その途中、「ああ、キャンディ」聞き慣れた声がした。振り向くとマーチン先生だった。「まだこちらの先生方と話がありそうなんだ。先にホテルへ戻っていてもいいんだがね」「わかりました。ではホテルで」軽く会釈を交わし、キャンディは再び歩き出した。

    小説キャンディ♡キャンディファイナルストーリー二次小説【時の彼方で】
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