
23MAY.
「白き薔薇に導かれて」ベルばら2次創作小説 R18 書き下ろし
「白き薔薇に導かれて」月の光が、ジャルジェ家の広大な庭園を淡く照らしていた。昼間は規律と格式に満ちたこの場所も、夜になると別の顔を見せる。風に揺れる並木、静かに水面を震わせる噴水、そして人の気配の消えた回廊。そこは、誰にも知られてはならない想いを抱える者にとって、ただ一つの逃げ場だった。オスカルは、窓辺に立ち、そっと庭を見下ろしていた。「⋯⋯今夜も⋯⋯」声に出さずに呟く。彼女の手には、一輪の白い薔薇があった。昼間、何気ないふりをして庭師に命じて用意させたものだ。誰にも怪しまれぬよう、ただの気まぐれのように。しかし、それは“合図”だった。二人だけの、秘密の暗号。白い薔薇を胸元に挿している日は、「今夜、会いたい」。それが、オスカルとアンドレの決めた、唯一の言葉なき約束だった。直接言葉にすれば、誰かに聞かれるかもしれない。手紙を交わせば、見つかる危険がある。だからこそ、あくまで自然に、しかし確実に互いへ届く方法として、この暗号を選んだのだ。そしてもう一つ。アンドレがそれに応える時は、必ず左の袖口のボタンに触れる。それは「応じる」という返事。その仕草をオスカルは見届け、その場から退座する。昼の訓練や食事の場で、ほんの一瞬だけ視線を交わす。オスカルは見えない薔薇を持つ仕草をする。すると、アンドレは隊服の左側のボタンに静かに手をやる。それが見えれば、今夜は叶う。ただそれだけの、しかし胸が震えるほどに甘い合図。オスカルは、静かに目を閉じた。今日、確かに見た。アンドレの左手の仕草⋯⋯。「⋯⋯アンドレ」抑えた声でそう呟きながらも、その唇には微かな笑みが浮かんでいた。夜半。屋敷の灯りが一つ、また一つと消えていく。オスカルは、柔らかな室内着に身を包み、足音を忍ばせて部屋を出た。長い廊下を進み、誰もいないことを確かめると、裏手の扉へと向かう。鍵は、かけていない。それもまた、二人の間の決まり事だった。扉を開けると、夜気が肌に触れる。ひやりとした空気の中に、花の香りが溶けていた。向かう先は決まっている。庭園の奥、古い石造りの温室の裏手。昼間はほとんど使われることのないその場所は、木々に囲まれ、外からは見えにくい。月明かりだけが、静かにそこを照らしている。足を進めるたびに、胸の鼓動が早くなる。軍人として、どんな場でも冷静でいられるはずの自分が、たった一人の男のために、こんなにも心を乱す。(女⋯なんだな、私は)だが、その想いを、手放すつもりはなかった。温室の影が見えてきた時。「オスカル」低く、優しい声が、闇の中から響いた。「アンドレ」その名を呼ぶだけで、胸の奥がほどける。彼はすでにそこにいた。木の幹にもたれ、静かに待っていたのだろう。お仕着せを着たその精悍な顔つきが月光に照らされている。「寒くはないか」「大丈夫だ。⋯⋯お前こそ」そう言いながらも、二人の距離は自然と近づいていく。昼間であれば、決して許されぬ距離。触れれば、誰かの目に映れば、それだけで全てが崩れてしまう。だが今は違う。ここには、二人しかいない。オスカルは、ほんのわずか躊躇ったあと、そっと手を伸ばした。アンドレの指先に触れる。それだけで、彼の体温が伝わってくる。「⋯⋯⋯やっと触れられる」オスカルの声は、かすかに震えていた。アンドレは、その手を優しく包み込む。「昼間、何度も思った」「何をだ?」「その手を⋯オスカル、お前のこの美しい手を⋯こうして握りたいと」その言葉に、オスカルは目を伏せる。黄金のまつ毛が、震えていた。「⋯⋯私もだ」短い答え。だが、それだけで充分だった。互いの想いは、もう隠しようもないほどに深く、確かなものになっている。アンドレは、そっとオスカルの髪に触れた。金の髪が、月の光を受けて柔らかく輝く。「こんなふうに触れるのも⋯⋯久しぶりだな」「⋯⋯人目があるからな⋯⋯」わかっていることだった。彼女は将軍家の令嬢であり、軍人。彼はその従者。恋人として並び立つことなど、本来許されるはずもない。それでも。「離れるつもりはないのだろう?」オスカルが問いかける。「今さら、か?」アンドレは小さく笑った。「お前がどんな立場でも、俺にとってはオスカルだ。それ以外のものは興味はないよ」その言葉に、オスカルの胸が強く打たれる。誇りも、責務も、すべてを知った上で、それでも選んでくれる。「私は、弱いな」「違う」即座に否定される。「強いからこそ、迷うんだ」静かな声。だが、その奥にある確信は揺るがない。オスカルは、ゆっくりと顔を上げた。そして、ほんの一瞬だけ躊躇ったあと⋯⋯彼の胸に身を預けた。「⋯⋯今だけは」その言葉に、アンドレは何も答えず、ただ強く抱きしめた。互いの体温が、重なり合う。昼間には決して許されない距離。だが、ここでは誰も咎めない。オスカルは目を閉じ、彼の鼓動を感じていた。規則正しく、しかし確かに自分と同じ速さで高鳴っている。「アンドレ」「ん?」「もしも⋯⋯」言いかけて、言葉を飲み込む。未来のことを語るには、あまりにも不確かな立場。それでも。「⋯⋯いや、なんでもない」「オスカル、言って?」やさしく促される。オスカルは、少しだけ笑った。「⋯⋯もしも、何もかも捨てられるなら」その先は言わない。だが、アンドレは胸をうたれた。「その時は」彼は、オスカルの額にそっと唇を触れた。「お前と生きる」ただそれだけ。誓いでも、約束でもない。けれど、それ以上に重い言葉。オスカルは、わずかに息を呑み、「⋯⋯ずるいな」と、呟いた。「何がだ?」「そんなことを言われたら⋯⋯」言葉は続かない。代わりに、彼女はそっと顔を上げた。月明かりの下で、二人の視線が重なる。そして、今度は迷わなかった。静かに、触れるだけの口づけ。ほんの一瞬。だが、その短さが、かえって想いの深さを際立たせる。再び口づけをすると、オスカルはアンドレのお仕着せを脱がしアンドレはオスカルの夜着を裾から捲った。彼女の白くほっそりとした股に手を伸ばす。オスカルは口づけをされたまま、アンドレが仕掛ける動きに腰が震える。(この手を待っていた⋯⋯この手を⋯⋯)唇は角度を何度も変えながら、互いの手は相手の素肌へと忍び込む。「あんッ!⋯⋯そこ⋯⋯」オスカルの股が震えながら開いたの同時に、アンドレは指を花芯の奥にするりと滑り込ませた。既に蜜は溢れ出し、座る大理石へと流れてゆく。それを掬おうと、アンドレは彼女を抱き、温室に入り、寒い時に使う分厚い毛布に、真新しいリネンをかけた。「オスカル、横になるよ」そう言うアンドレの声に、彼の首に腕を回したまま小さく頷いた。互いの呼吸がかすかに重なっている。「どうすればいい?」アンドレが、低く呟く。「⋯⋯今更、やめるのか?敵前逃亡だぞ」オスカルは、わずかに頬を染めながら言い返す。「ここは戦場より厳しいんだ」「違いない」二人は、小さく笑い合った。その笑いは、どこか救われたようでもあり、同時に切なさも含んでいる。普段、触れたいのに、触れきれない。愛しているのに、堂々と示せない。だが。「それでも」オスカルが言う。「こうして会えるだけで、私は⋯⋯」言葉が途切れる。オスカルは暗闇の中、アンドレの温かな手が添えられた股を、自然と広げた。まだ、花芯から男を待つ、愛液が少しずつ溢れ出している。「アンドレ⋯⋯愛している⋯⋯」アンドレは頷いた。「俺もだ」そう囁いた男の唇が、女の股を掴み、濡れた花芯に唇を寄せ、吸い取り、時に舌で舐め、指で女の中を探る⋯⋯⋯。あえぐ声が、誰にも聞こえない部屋に響いた。夜は、まだ続く。月は高く、庭は静まり返っている。誰にも知られぬまま、二人はしばらくの間、愛し合った。言葉は少なくともいい。触れる手の温もりと、同じ時間を共有しているという確かな実感。やがて別れの時が近づいても、二人は急がなかった。また、白い薔薇と左袖口のボタンが、次の夜を約束してくれる。それまでのわずかな距離さえ、今は愛おしい。「帰ろう⋯⋯オスカル」アンドレは満ち足りた彼女抱き上げたまま、静かに笑った。「ああ、アンドレ」名を呼び合う、その一瞬に、すべてを込めて。そして、屋敷まで、月明かりを頼りにひとつになった影が静かに進んでゆく。もう数時間で、朝がくる。朝になれば。二人は再び、それぞれの立場へと戻っていく。だが。心だけは、決して離れないままに⋯⋯。「白き薔薇に導かれて」〜 fin 〜🌹✨️2026年5月9日書き下ろし

水木しげる先生の採点はMAX80点で100点は無い②

GEOゲームセール 2026年5月23日(土)
【K】Kept in the Dark
【K】Kept in the Dark(知らされないままの真実)夜の公演を終えた劇場には、まだ熱の名残が漂っていた。舞台の照明は落ちているのに、空気だけがどこか張り詰めたまま、ゆっくりと冷めていく。奥まった休憩スペースのテーブルには、誰かが置いた新聞と雑誌が無造作に積まれていた。その一冊を、マイケルが何気なく手に取る。ぱらりとページをめくると、すぐに目に入ったのは見慣れた姿だった。「……ああ、これか」小さくこぼれた声に、隣にいたケビンが身を寄せる。「その記事か。今日やたら回ってたやつ」舞台写真のページ。黒衣の王子テリュース・グレアムのハムレットが、鋭く静かな眼差しでこちらを見ている。ふたりはしばらく何も言わず、その写真に見入った。「やっぱ、すげえよな」先に口を開いたのはケビンだった。感心を隠さない声。「今日のラストも、あそこまで張り詰めるかって感じだったしな」マイケルも、静かに頷く。その余韻のまま、視線が自然とページの端へ滑っていく。小さな囲み記事。《復帰当初は体調や精神面のサポートが必要だったと関係者は語る。――特に、元女優スザナ・マーロウの存在が……》ケビンの指が、そこで止まった。「なあ」少しためらうような声。「ん?」「これさ」記事を軽く叩く指先。ほんのわずかな間を置いて、ケビンは続けた。「……どう思う?」「どう、って?」「いや……“復帰当初は体調や精神面のサポートが必要だった”って……」言葉を選ぶように、ゆっくりと。「そんな感じ、あったか?」この記事の内容は、普段からテリィを知る者からすれば違和感を感じてしまう。マイケルは一度ページに目を落とし、それから答える。「なかったと思うけど」「だよな。……それに、スザナさんのこともな、まあ……噂でだいたいのことは知ってるけども……」「ああ」マイケルも頷く。落下した照明、身を投げ出して庇ったという元ジュリエット役。劇団にいる者なら、その場にいなくとも誰もが知っている話だった。「でもさ」ケビンは小さく息を吐く。「……“それ”と“これ”は、なんか違う気がすんだよな」その言葉に、マイケルが横目で彼を見る。ケビンの視線は、もう雑誌には向いていなかった。どこか遠くを見ている。「チャリティー公演のときのあいつ……」あのときのテリィの顔。ふとした瞬間にこぼれた、あのやわらかな表情。「テリュースには、ほかに想う人がいるんじゃないかって思うんだ」「俺も。少なくともスザナさんではないと思う」「……ああ」ケビンの短い同意。「まあ、こういう下世話な話はあいつ嫌いだと思うから聞かないけどさ」踏み込めないのではなく、踏み込まない。それが、ふたりの共通の了解だった。少しの沈黙のあと、マイケルが静かに言う。「自分から言うやつでもないしな」「だな」ケビンは視線を落としたまま、思い出すように言った。「前にさ。デパートで見たんだよ」間を置く。「……車椅子、押してるとこ」マイケルは何も言わずに聞いている。「あとで軽く言ったんだ。“見たぞ”って」そのときのことを思い出してケビンは言う。「そしたらさ……テリュース、困った顔してた。……そこには触れるなって感じ」ケビンは肩をすくめる。「だから、それっきり、もう何も言えなかった」雑誌を閉じる音が、小さく響いた。「……にしてもさ」ケビンは天井を仰ぐ。「これだけ好きに書かれてんのに、あの舞台だぜ?」「ああ」マイケルも視線を上げる。「揺らぐどころか、研ぎ澄まされてる」ケビンは苦笑する。「同い年だろ?あいつ、俺らと。なんなんだよ、あの精神力」呆れと、敬意が混じる。そのとき、外から足音が近づいてきた。ふたりは自然に顔を上げる。雑誌を脇に寄せる動きも、あまりに自然だった。ドアが開く。「……なんだ、お前ら。まだいたのか」現れたのは、当の本人だった。「おう、ちょっとな」ケビンがいつもの調子で返す。マイケルは軽く手を挙げる。そこには、さっきまでの話の気配はもうない。ただの仲間の顔。テリィは二人を一瞥し、無造作にコートを取る。「先帰るぜ」「ああ、おつかれ」「お疲れ」短いやり取り。ドアが閉まり、足音が遠ざかる。同時に小さく息をついた。静まり返った休憩スペースに残っているのは、閉じられた雑誌と、舞台を終えた劇場特有の熱だけだった。ケビンは椅子の背にもたれながら、小さく笑う。「知られたくないこと、たぶん山ほどあるんだろうな、あいつ」その声は、同情でも詮索でもなかった。ただ、少しだけ寂しそうだった。マイケルは答えず、閉じられたドアを見つめる。テリュース・グレアムは、自分のことを語らない。どれほど世間が勝手に物語を作っても、否定も説明もしないまま、ただ舞台へ立ち続ける。そして、誰にも見せない何かを抱えたまま、あの張り詰めた舞台を演じ切ってしまうのだ。だからこそ、余計に思う。本当に彼を支えているものは、きっと彼の心の中だけにあり、それを誰かに告げることはないだろうと。