
23MAY.
【K】Kept in the Dark
【K】Kept in the Dark(知らされないままの真実)夜の公演を終えた劇場には、まだ熱の名残が漂っていた。舞台の照明は落ちているのに、空気だけがどこか張り詰めたまま、ゆっくりと冷めていく。奥まった休憩スペースのテーブルには、誰かが置いた新聞と雑誌が無造作に積まれていた。その一冊を、マイケルが何気なく手に取る。ぱらりとページをめくると、すぐに目に入ったのは見慣れた姿だった。「……ああ、これか」小さくこぼれた声に、隣にいたケビンが身を寄せる。「その記事か。今日やたら回ってたやつ」舞台写真のページ。黒衣の王子テリュース・グレアムのハムレットが、鋭く静かな眼差しでこちらを見ている。ふたりはしばらく何も言わず、その写真に見入った。「やっぱ、すげえよな」先に口を開いたのはケビンだった。感心を隠さない声。「今日のラストも、あそこまで張り詰めるかって感じだったしな」マイケルも、静かに頷く。その余韻のまま、視線が自然とページの端へ滑っていく。小さな囲み記事。《復帰当初は体調や精神面のサポートが必要だったと関係者は語る。――特に、元女優スザナ・マーロウの存在が……》ケビンの指が、そこで止まった。「なあ」少しためらうような声。「ん?」「これさ」記事を軽く叩く指先。ほんのわずかな間を置いて、ケビンは続けた。「……どう思う?」「どう、って?」「いや……“復帰当初は体調や精神面のサポートが必要だった”って……」言葉を選ぶように、ゆっくりと。「そんな感じ、あったか?」この記事の内容は、普段からテリィを知る者からすれば違和感を感じてしまう。マイケルは一度ページに目を落とし、それから答える。「なかったと思うけど」「だよな。……それに、スザナさんのこともな、まあ……噂でだいたいのことは知ってるけども……」「ああ」マイケルも頷く。落下した照明、身を投げ出して庇ったという元ジュリエット役。劇団にいる者なら、その場にいなくとも誰もが知っている話だった。「でもさ」ケビンは小さく息を吐く。「……“それ”と“これ”は、なんか違う気がすんだよな」その言葉に、マイケルが横目で彼を見る。ケビンの視線は、もう雑誌には向いていなかった。どこか遠くを見ている。「チャリティー公演のときのあいつ……」あのときのテリィの顔。ふとした瞬間にこぼれた、あのやわらかな表情。「テリュースには、ほかに想う人がいるんじゃないかって思うんだ」「俺も。少なくともスザナさんではないと思う」「……ああ」ケビンの短い同意。「まあ、こういう下世話な話はあいつ嫌いだと思うから聞かないけどさ」踏み込めないのではなく、踏み込まない。それが、ふたりの共通の了解だった。少しの沈黙のあと、マイケルが静かに言う。「自分から言うやつでもないしな」「だな」ケビンは視線を落としたまま、思い出すように言った。「前にさ。デパートで見たんだよ」間を置く。「……車椅子、押してるとこ」マイケルは何も言わずに聞いている。「あとで軽く言ったんだ。“見たぞ”って」そのときのことを思い出してケビンは言う。「そしたらさ……テリュース、困った顔してた。……そこには触れるなって感じ」ケビンは肩をすくめる。「だから、それっきり、もう何も言えなかった」雑誌を閉じる音が、小さく響いた。「……にしてもさ」ケビンは天井を仰ぐ。「これだけ好きに書かれてんのに、あの舞台だぜ?」「ああ」マイケルも視線を上げる。「揺らぐどころか、研ぎ澄まされてる」ケビンは苦笑する。「同い年だろ?あいつ、俺らと。なんなんだよ、あの精神力」呆れと、敬意が混じる。そのとき、外から足音が近づいてきた。ふたりは自然に顔を上げる。雑誌を脇に寄せる動きも、あまりに自然だった。ドアが開く。「……なんだ、お前ら。まだいたのか」現れたのは、当の本人だった。「おう、ちょっとな」ケビンがいつもの調子で返す。マイケルは軽く手を挙げる。そこには、さっきまでの話の気配はもうない。ただの仲間の顔。テリィは二人を一瞥し、無造作にコートを取る。「先帰るぜ」「ああ、おつかれ」「お疲れ」短いやり取り。ドアが閉まり、足音が遠ざかる。同時に小さく息をついた。静まり返った休憩スペースに残っているのは、閉じられた雑誌と、舞台を終えた劇場特有の熱だけだった。ケビンは椅子の背にもたれながら、小さく笑う。「知られたくないこと、たぶん山ほどあるんだろうな、あいつ」その声は、同情でも詮索でもなかった。ただ、少しだけ寂しそうだった。マイケルは答えず、閉じられたドアを見つめる。テリュース・グレアムは、自分のことを語らない。どれほど世間が勝手に物語を作っても、否定も説明もしないまま、ただ舞台へ立ち続ける。そして、誰にも見せない何かを抱えたまま、あの張り詰めた舞台を演じ切ってしまうのだ。だからこそ、余計に思う。本当に彼を支えているものは、きっと彼の心の中だけにあり、それを誰かに告げることはないだろうと。

アニメ「転スラ」4期6話(78話)西方諸国評議会 観ました!―― ほんの少し小説版から補足も

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