
10JUN.
運命の香り。第4話 ベルサイユのばら2次創作現代版小説 書き下ろし
『Le parfum du destin ~運命の香り~』第4話 約束の香り 夜の病院は静かだった。 白い廊下を、アンドレは足早に歩いていた。 胸の鼓動がうるさい。 病室番号を確認する。 そして。 扉の前で立ち止まった。 ほんの少しだけ躊躇う。 だが次の瞬間にはノックしていた。 「どうぞ」 中から聞こえたのは女性の声。 ジョルジェット夫人だった。 アンドレが入ると、彼女は静かに立ち上がった。 「アンドレさんですね」 「はい」 ジョルジェット夫人は微笑んだ。 「来てくださってありがとう」 その声には安堵が滲んでいた。 ベッドを見る。 オスカルが眠っている。 長い金髪が白い枕に広がり、普段の凛々しい姿とは違ってひどく儚く見えた。 アンドレの胸が痛む。 三か月。 たった三か月。 それなのに、ひどく長い時間に感じた。 「熱は下がりました。ただ身体が限界だったのです」 ジョルジェット夫人が小さくため息をつく。 「この子は昔から無理をするので」 アンドレは頷いた。 分かる気がした。 責任感が強い。 人のためなら自分を後回しにする。 そんな人だ。 なぜそう言い切れるのか分からない。 けれど知っている気がした。 ずっと昔から。 「⋯⋯アンドレ」 微かな声。 二人が同時に振り向く。 オスカルの瞼が震えていた。 「オスカル」 気付けばアンドレはベッドの傍へ行っていた。 青い瞳がゆっくり開く。 ぼんやりとした視線。 だが次の瞬間。 「⋯⋯⋯本当にいるのか?」 その声が震えた。 アンドレの胸が締め付けられる。 「ああ、いるよ」 静かに答える。 するとオスカルは少しだけ笑った。 「良かった⋯⋯ありがとう⋯⋯」 その一言だった。 だがアンドレには十分だった。 自分が来て良かったのだと。 そう思えた。 ジョルジェット夫人はそっと席を外してくれた。 病室には二人だけ。 しばらく沈黙が続く。 不思議と気まずくはない。 むしろ心地良い。 「心配した」 アンドレが言った。 オスカルが苦笑する。 「そうか」 「そうか、じゃない」 少しだけ強い口調になる。 「倒れるまで働くなんて」 オスカルは目を伏せた。 まるで叱られた子供のようだった。 アンドレは、その美しい顔を見ていると。 突然。 景色が変わった。 暖炉の火。 貴族の屋敷。 軍服姿の自分と、オスカル⋯⋯。 『無理をするな』 若い自分が言っている。 『お前が倒れたら俺が困る』 そのオスカルが笑う。 『子供扱いするな』 「⋯⋯っ!」 アンドレは思わず額を押さえた。 「アンドレ?」 「いや⋯⋯なんでもない⋯」 最近増えている。 記憶。 夢ではない。 もっと鮮明なもの。 オスカルもまた彼を見つめていた。 なぜだろう。 こうしていると。 泣きたくなる。 懐かしくて。 苦しくて。 愛しくて。 まるで長い旅の末に再会したような気持ちになる。 「私も夢を見る」 不意にオスカルが言った。 「最近は夢じゃなくなってきた」 アンドレが顔を上げる。 「革命の日を思い出す」 その言葉に空気が止まった。 「お前も⋯⋯?」 オスカルが頷く。 「炎を見た」 「俺は雨を見た」 「私は泣いていた」 「俺もだ」 沈黙。 そして。 二人とも同じことを理解した。 これは偶然ではない。 同じ記憶だ。 遠い昔の。 アンドレは、不安そうに見つめるオスカルの白い手を、そっと握り、安心させるように微笑んだ。「オスカル⋯もう無理はしない事。あと、これからは出来るだけ時間を作って、二人で会おう⋯⋯」「アンドレ⋯⋯」「逢いたいんだ⋯俺⋯⋯いつでも⋯⋯」オスカルは、少し潤んでいるアンドレの瞳をじっと見つめると、ゆっくり頷いた。「私も⋯⋯。だから早く治すから」 その後、オスカルは二週間の入院生活を送ることになった。 驚いたことに。 アンドレは毎日のように見舞いに来た。 花を持って。 コーヒーを持って。 時には何も持たず。 ただ会いに。 仕事帰りに。店の休憩時間に。 オスカルはその時間が待ち遠しくなっていた。 朝起きる。 リハビリをする。 書類に目を通す。 そして夕方になる。 今日も来るだろうか。 そんなことを考えている自分に驚く。 三十二歳にもなって。 こんな気持ちは久しぶりだった。 いや。 もしかすると初めてかもしれない。 ある日の夕方。 アンドレは自分の店の紙袋を持って現れた。 「何だそれは?」 オスカルが首を傾げる。 アンドレは照れたように笑った。 「相談がある」 中から取り出したのはガラス瓶だった。 透明な瓶。 薔薇を模した美しいデザイン。 光を受けてきらめく。 「綺麗だな」 オスカルが素直に感心する。 「だろ?」 少し得意そうな顔。 「実は職人と試作したんだ」 「何のために?」 アンドレは少しだけ視線を逸らした。 珍しく緊張している。 「お前の香水を入れたい」 オスカルが目を瞬く。 「私の?」 「Étoile de l'Aubeを」 アンドレの店らしい。 少量限定。 特別な瓶。 手作り。 大量販売ではない。 香りを大切にする人へ届けるための企画。 オスカルは静かに瓶を見つめた。 そして気付く。 この瓶は。 どこかベルサイユの庭園を思わせる。 薔薇と光。 そして優しさ。 「良い企画だと思う」 アンドレの顔が明るくなる。 「本当か?」 「ああ」 「じゃあ退院したら打ち合わせを」 そこまで言って。 アンドレは少し言葉を止めた。 本当の理由は別だった。 退院後も。 会う理由が欲しかった。 店へ来てほしかった。 もっと話したかった。 もっと知りたかった。 だが口には出せない。 まだ。 オスカルはそんな彼を見ていた。 そして不意に笑った。 「口実だろう?」 「⋯⋯何が?」 「私を店へ呼ぶための」 アンドレが固まる。図星だった。 オスカルは声を立てて笑う。 久しぶりだった。 こんなに楽しく笑ったのは。 「見抜かれていたか」 アンドレも苦笑する。 夕陽が病室へ差し込む。 金色の光。 二人の影が並ぶ。 その光景を見た瞬間。 また記憶がよぎった。 ベルサイユの庭園。 若い日の二人。 薔薇のアーチの下。 笑い合う自分たち。 とても、とても⋯幸せそうに。 今度は二人とも動かなかった。 逃げなかった。 オスカルが静かに呟く。 「前の人生で」 「うん」 「私はお前を愛していたのだろうか」 アンドレは答えなかった。 いや。 答えられなかった。 なぜなら。 その問いに対する答えを。 もう心が知っていたから。 「たぶん」 彼はゆっくり微笑む。 「俺も同じことを考えていた」 夕陽の中。 二人は静かに見つめ合った。 まだ恋人ではない。 だが確実に。 運命は再び二人を引き寄せ始めていた。 遠い革命の日に途切れた物語の続きを。 今度こそ最後まで紡ぐために⋯⋯⋯。『Le parfum du destin ~運命の香り~』第4話 約束の香り〜 fin 〜🌹 第5話へ続く 🌹✨💙🕊️🔴お知らせ🔴お買い上げ2点以上で、非売品のイラストをクリアファイルにいれて、プレゼント致します♥️在庫なくなり次第終了となります🌹先日アップ致しました第6弾のコラボグッズ‼️売り切れも出ていますが、まだあります♥️⬇️『ベルばらハンドメイド デザイナーしをん様とのコラボグッズ第6弾‼️到着しました♥️』デザイナーしをん様と、私のイラストのコラボグッズ第6弾‼️到着致しました‼️まだ、価格は付けていないので、写真でご紹介だけ。また価格は休みの日に改めてわかりや…ameblo.jp過去に掲載しました、コラボグッズや、バッグデザイナーとのコラボグッズの1点ものバッグ等は、こちらのブログです♥️『誕生日プレゼントを頂きました✨そして。イメージオリジナルグッズ第5弾が近々きます』今日。仲間の、ハンドメイド バッグデザイナーさんが、🔔🌹ちっくで、大人女子向けのバッグを作って、送って下さいました♥️そのバッグに、渡していた、舞台用ジュエリ…ameblo.jp⬇️こちらもございます♥️全て1点もので、売り切れもありますが、売り切れているのに、修正をかけ忘れているのもあるかも知れません💦必ず、DMにて、お問い合わせ下さいませ。『ベルばら2次創作グッズ 第4弾新作発表〜✨♥️』昨日、予告をさせて頂きました、デザイナーしをん様と、私のイラストのベルばら2次創作コラボグッズ♥️第4弾新作発表致します😊昨日のは、⬇️こうお知らせ致しました…ameblo.jpジュエリーパーツアクキーは、全て、イラストを新規イラストに変更致しますので、ただいま頒布は中止しています♥️今しばらくお待ち頂けましたら幸いです♥️では🌹✨️

POUPÈE8:永遠の者たちの再会|オスカル様を巡る三人のファンタジー(ベルばら二次創作)

無職転生Ⅲ 2026年7月5日開始
【Y】Yet
【Y】Yet(それでも、幸せになっていい)窓辺に置かれたラジオから、午後の音楽番組が静かに流れていた。冬の陽射しが、小さな居間へ差し込んでいる。ニューヨークを離れて、もう四年が過ぎていた。兄夫婦の家に身を寄せてからの生活は、決して派手ではないけれど穏やかだった。最初の頃は何をする気力もなかった自分が、今では実家の家業を継ぐ兄を手伝い、庭へ出て花の世話をし、時折町へ買い物へ行くようになっている。人は、どれほど深い悲しみの中にいても、生きていくしかないのだと知った。その日も、ミセスマーロウはいつものように午後の紅茶を淹れていた。テーブルの上には、兄が町で買ってきた新聞が置かれている。何気なく手を伸ばして、そして、指先が止まる。《人気俳優テリュース・グレアム、アードレー家令嬢との結婚を公表》その見出しを見た瞬間、マーロウ夫人はしばらく息を忘れたように動かなかった。写真には、見覚えのある青年が写っていた。けれど、そこにいる彼は、かつて自分が知っていた“テリュース”とは少し違って見えた。穏やかな表情、肩の力が抜けていて、静かに笑っている。その隣には、金色の髪の女性。顔は隠されているが、彼女を見つめるテリュースの視線の優しさは隠しきれていなかった。ミセスマーロウは、そっと新聞へ指を滑らせた。結婚したのは一年半も前らしい。ただ、公にしていなかっただけなのだと記事は伝えていた。そう、と小さく息を吐く。そして不意に、胸の奥で何かがほどけるのを感じた。――ああ、この子は。やっと、自分の人生を生きられるようになったのね。その瞬間、はっきりと理解した。テリュース・グレアムは、スザナの恋人ではなかったのだと。もちろん、彼は誠実で優しかった。最期までスザナを支え続けた。けれどそれは、“愛し合う恋人”としてではなく、もっと別の――責任や罪悪感や、痛みの延長線上にあったものだったのだと、今になってようやくわかる。ミセスマーロウは静かに目を閉じ思い出す。娘を失うかもしれない恐怖に取り乱していた頃のことを。“あなたのせいだ”と、彼を責めた日のことを。スザナが不安定になるたび、彼へ縋っていた自分を。“この子をひとりにしないで”と、彼へ迫っていたことを。あの頃のテリュースは、まだ二十にも満たない青年だった。娘と、ほとんど変わらない年頃。本来なら、夢を追い、恋をし、自分の人生を生きていてよかったはずの若者だったのだ。なのに自分は、娘を救いたい一心で、その肩へ重すぎるものを乗せていた。ミセスマーロウは新聞を見つめたまま、小さく笑った。涙が滲んでいた。けれどそれは、四年前の涙とは違っていた。「……よかったわね、テリュース」その呟きは、光の中へ静かに溶けていく。スザナの怪我は、彼のせいではなかった。もちろん事故の日、そう思えなかったわけではない。わかっていたのだ。娘が、自ら彼を庇ったことだと。それでも、誰かを責めなければ立っていられなかった。あのときの自分は、あまりにも弱かった。けれど今なら思う。あの子を救いたかったように、彼もまた、救われなければならなかったのだと。記事の中のテリィは、穏やかに笑っていた。ミセスマーロウは胸の奥で静かに理解する。ああ、この子はようやく――“普通の幸せ”を手に入れたのだと。暖かな食卓。帰る場所。愛する人。そんな、誰にでも許されるはずの幸福を。そっと新聞を閉じた。風がカーテンを揺らした。「スザナ……」静かに娘の名を呼ぶ。もし今ここにあの子がいたなら、きっと泣きながら笑っただろうと思う。そして最後には、こう言う気がした。――よかったね、テリィ。ミセスマーロウは目を閉じる。その言葉を胸の中でそっと繰り返しながら、彼女もまた、小さく微笑んだ。人は、誰かを傷つけた記憶を抱えたままでも、過去を消せなくても、それでも幸せになっていいのだ。きっと、それが生きていくということなのだから。