
21MAY.
2014年②不和
胸の発達という嬉しい変化を実感した後にわたしの探求は「ホルモンだけでは解決できない唯一にして最大の課題」へと集中していきましたそれはわたしの「声」でした幸いなことにわたしの喉仏は元々目立つ方ではなく首元は比較的滑らかな曲線を描いていましたさらに手や指も骨ばっておらず細くすらりとした形をしていたためネイルや指輪で綺麗に飾り立てれば性別を疑われることはほとんどありませんでした身体の大部分は理想的な変化を辿っていたのですしかしその身体から発せられる声がすべてを台無しにしてしまいましたわたしの低い声帯から出る音は女性としての姿にはあまりにも重く太く不協和音となって響くのです彼女が選んでくれた優雅なブラウスを着て鏡の前に立っても口を開けばアラフィフ男性の低音が響きますそのギャップはせっかくの喜びを打ち消してしまうほどの違和感でした「やっぱりこの声じゃダメだ…どんなに装ってもすべてが台無しになってしまう…」自分の声を録音して再生するたびわたしは深い自己嫌悪に陥っていましたわたしが求めていたのは視覚的な美しさだけでなく聴覚も含めたトータルな女性らしさだったからですそんなわたしを見て彼女はいつも優しく励ましてくれました「声帯そのものを変えるのは難しいかもしれないけれど訓練次第で深みのある魅力的なアルトの声になれると思うのだから今はそんなに焦らないで!」「ありがとう…でもどうしても気になってしまうんだ…」彼女の温かい慰めも完璧な表現を求めるわたしの焦りを消し去ることはできませんでしたこうしてわたしの探求は身体の変化から次の段階である「社会的な認知」への挑戦へと移っていったのですある日のこと「ねえ二人で近所のカフェに行ってみない?」わたしの提案に彼女は「いいわね行きましょう」と笑顔で応じてくれました彼女が選んでくれた控えめなワンピースに身を包みわたしはそっと胸を張りました身体のラインも手元の美しさも十分に自信を持てる仕上がりですしかしながらいざマンションの扉を開けるときわたしの心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動していました「大丈夫とっても素敵よ一緒に行きましょう」彼女がそっと手を添えてくれてようやく一歩を踏み出すことができました目的のカフェに入り窓際の席に腰を下ろします周囲の人々はわたしたちを「仲の良い女性二人組」として見ているようでしたコーヒーを口にしながらわたしは「自分という存在がそのまま社会に受け入れられている」という生まれて初めての深い安堵感を覚えていました「静かでとても素敵なお店だね」「気に入ってくれてよかったケーキも美味しいよ」彼女とそんな小声のやり取りを楽しんでいたその時でした注文をとるためにホールスタッフの女性が席にやってきたのです彼女が「カフェラテを二つお願いします」と頼んだ後わたしも言葉を続けました「ホットでお願いします」普段よりもトーンを上げるよう必死に意識したつもりでしたしかし口から出たのはやはり低く太い地声でしたその瞬間ホールスタッフの表情がほんの一瞬だけ強張るのをわたしは見逃しませんでした彼女はすぐにプロの顔に戻り「かしこまりました」と注文を復唱してくれましたが動揺は隠せませんさらに追い打ちをかけるように隣のテーブルに座っていた男性客の視線がわたしの顔から喉元へと下がりはっきりと二度見したのが分かりました「ねえ…今の…」「しっ!聞こえるよ…」彼らの小さな囁き声が突き刺さるようにわたしの耳に届きました声を発したその一瞬で苦労して作り上げた「女性の仮面」が音を立てて割れてしまったのです厚く高い社会の壁「ごめんなさい…もうここには居られない…」それ以上何も話せなくなってしまったわたしはコーヒーを半分以上残したまま彼女に促されるようにして店を出ましたマンションへ戻る帰り道わたしの心は深い絶望に包まれていました身体のラインも手の美しさも通用するのに声という一瞬でジェンダーを決定づけてしまう要素がわたしの前に立ちはだかっています社会的な認知の壁はホルモンで変えられる身体の壁よりも遥かに厚くそして硬いものでした「このままじゃただ『声の低い女装をした男性』で終わってしまう…」自室に戻りソファに深く沈み込みながらわたしはぽつりと呟きました彼女は静かに隣に座りそっとわたしの手を握ってくれました「今日のことは気にしないで声の出し方ならこれから二人でいくらでも練習できるわ」「そうだね…ここで諦めるわけにはいかない」女性としての身体を得る喜びは社会の壁の前ではまだ脆いものかもしれませんしかしこの苦い経験をきっかけにわたしの探求は「声の女性化」と「社会的な生活空間の拡大=カミングアウト」という次なる実践のステージへと舵を切ることになりました

標高の高いキャンプ場 ③

めっちゃフライングで盛夏の着物で書のお稽古に!香淳皇后の葡萄昼夜柄の帯に水色ツイリー

グレーな人間が大きくなるって嫌